#オリジナル小説 🏜️砂漠のアーレア・続編🏜️
数千年前に激動の歴史と、戦場の中を一国の姫として生きた、ある少女の物語。
【第7章・数千の時を越えて(前編)】
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数千年前に激動の歴史と、戦場の中を一国の姫として生きた、ある少女の物語。
【第7章・数千の時を越えて(前編)】
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数千年前、古代中東において最も巨大であったその帝国は、砂嵐と洪水によって滅びた。戦いによって数々の国を支配し、巨大帝国を構築したいった権力でさえ、大災害の脅威には抗えなかった。巨大帝国は、一瞬にして地底の奥深く深くに埋もれてしまった。他国の人々は「これは"姫様の呪い"だ...。」と噂した。
これは、数千年前に激動の歴史と、戦場の中を一国の姫として生きた、ある少女の物語。
【第7章・数千の時を越えて(前編)】
夕方の光の中で、少女は川辺の水に花を浮かべていた。夕陽が、水面(みなも)をきらきらと照らし、薄桃色の睡蓮をゆらゆらと揺らした。少女は、白い肌に、青い瞳という出で立ちをしていた。絹の白いワンピースのみを見に纏い、ウェーブのかかった黒髪には銀の髪飾りが付いていた。銀の腕輪や、首飾り...少女は高価な品ばかりを見に纏っていたが、決して高貴な身分ではない。少女の足元をみれば、彼女が被差別階級であることがすぐに分かった。少女は靴を履いていないのだ。裸足だった。被差別階級の者は、靴を与えてもらえない。奴隷として、遠くに逃げられないようにするためだ。夕陽が沈む前に、帰らなければならない...今日も"ご奉仕"に勤めなければならないのだから。
夜の帳が降りてくる。長い長い夜が始まる。薄灯の灯った部屋の中、今日も少女はご奉仕に勤める。少女は高級娼婦なのだ。もうこれまでに、何人の客を相手にしてきたのだろう。数えきれない。この場所に来てから、ひたすらに死だけを希望に生きてきた。唯一の安らぎは、小部屋(娼婦や遊女が客をとる部屋のこと)から出て、外出することを許された時間に川辺で水に花を浮かべら遊びをすること、空を見上げることだった。空を仰ぐと、少し死に近づく気がして、身体を弄ばれる苦しみから、解放される気がした。
しかし、小部屋の中で過ごす長い長い痛みと屈辱にみちた夜は、空すら仰ぐことができない。空さえ仰げないこの苦界で、心の中でひたすらに天国のかけらを探すのだった。
少女の生まれ故郷は、隣国にある小さな村だった。その国の地中には"数千年前に、砂嵐と洪水によって滅びた巨大帝国"が埋もれているという伝説があった。かつてはいくつもの属国を持つ巨大帝国だったと言い伝えられており、地中を掘れば莫大な資源や富が採掘できるはずであったが、地中を掘ろうとした者はみな不治の病にかかったり、突然死したりした。これは、かつて無実の罪を着せられ、戦場で亡くなった帝国の姫の呪いであると言い伝えられてきた。そして、数千年の時がたった今、かつての巨大帝国は周囲の帝国の属国になるどころか、どの国にも見捨てられた貧国のひとつに成り下がってしまった。
また、その国では人々が"突然に悪霊に取り憑かれ気がふれてしまう"という恐ろしい病が古くから流行していた。これにかかった者は、元の自分を忘れ、獣のように恐ろしい目つきになり、暴力的になってしまう。また幻覚や妄想が見える様になり、呪いの言葉を吐き続ける様になる。どんな凄腕の祈祷師でも、この病を治すことはできなかった。
少女の両親も、この病にかかってしまったのだ。愛情に溢れ、優しかった両親は、別人のようになり、獣の様な形相で夜な夜な暴力を振るうようになった。それに耐えかねて、ある日突然に家を逃げ、故郷を捨て、国境を越えて隣国まで逃げてきたのだ。日頃の暴力と、十分な食事も取れないままの長距離移動は過酷だった。この国についた時には、身も心もぼろぼろだった。
しかし、着の身着のままに国境を越えた逃げてきた少女には、どこにも行くアテがなく、自分の身を売る他に生きる術がなかったのだ。
「私は幸せにはなれない。この小部屋の中で、搾取されながら残りの生涯を終えるのだわ。」それが少女の口癖だった。しかし、少女の運命は突如変わることとなる...。
少女と、その青年の出会いは突然のことだった。
ある日のこと、いつもの様に水に花を浮かべて歌っていたら、青年は少女の目の前に突然に現れた。「美しい歌声に惹かれて、ここまでやってきた。」のだと青年は言った。「駒鳥の様に高音で美しい声。」だと、青年は少女の歌声を褒め讃えた。
「私に無償で話しかけるなんて、なんて図々しいの。私の足元を見てごらんなさい...私が娼婦だということがお分かりでしょう?私を口説くなら、小屋に来てお金を払ってからにしておくんなし。でもあなたは...見る限り一生をかけてお金を貯めても、私を抱けるだけのお金は貯まらないでしょうね。」いつも、少女が川辺で遊んでいると声をかけてくる道ゆく行商人や、旅人、釣り人に声をかけられては、少女は嫌味ったらしく憎まれ口を叩き、彼らを突っぱねるのだった。
けれども...青年はそんは男達と何かが違った。色情的な欲を全く感じなかった。これまで数えきれない数の人数に"ご奉仕"してきた彼女の目は、それを簡単に見抜いた。
その日から毎日のこと、青年は、少女が水に花を浮かべて歌っていると、やってきた。娼婦である少女が外に出ることを許されているのは、夕暮れ時から、夜の帳が降りてくるまでのわずかな時間だ。その僅かな時間、ただただ水に花を浮かべて時間を過ごした。
寝て起きて、小部屋の中で身体を弄ばれて、毎日がその繰り返し。死ぬよりも痛く苦しい日々の中で、少女は感情を殺し、記憶に蓋をし、ただ何も感じずに生きる様になっていた。
しかし、青年と少しずつたわいもない会話(それは、好きな花の名を言い合ったり、そばに寄ってくる小鳥を愛でることだった。)を交わす様になり、喜びやささやかな幸せを思い出しては、感情や記憶を少しずつ取り戻す様になっていった。と同時に、日々自分が受けている扱いに対して、大きな悲しみと怒りを覚える様になる。虐待から逃げて、命懸けで国境を越え、ぼろぼろになった心身も癒えぬまま、こうして身体を買われているのだ。まだ10代の少女の悲しみは計り知れない。
「この人が、私を水揚げ(娼婦や遊女の身を金で買い取り、愛人や妻にすること。)してくれたらいいのに...。けれども私は、高級娼婦であるとはいえ、身体を売っている以上はこの国では被差別階級。この人は私のことを好きになってくれるのかしら。」少女はそんな思いを心に秘めていた。
青年も同じことを思っていた。けれども彼は、若くして国の中でも一目置かれる優秀な人材でありながら、学者仲間の嫉妬によって学者の身分と財産を奪われ、小さな寺子屋で子供達に学問を教えながら、日銭暮らしをしていた。
「どうしたの?恥ずかしいの?もっとこっちを見てくださいな。」川辺でふたりで過ごす時間、少女は度々、青年にそう微笑みかける。
「そばにいながら、あなたを自由にしてあげられないのが悲しくて、悔しくて、あなたを真っ直ぐに見ることができないんだ...学者の身分や財産を奪われていなければ、すぐにでもあなたを水揚げしたのに...。」そんな思いを青年はぐっと飲み込んだ。
ある日、川辺で青年が少女を探していると、後ろから自分の名を弱々しく呼ぶ少女の声が聞こえた。振り返ると、そこはアザキズだらけの、ボロボロの姿の少女がいた。ドレスと髪を覆うベールには血が滲んでいて、息が乱れ、立っているのもやったという状態で震えていた。小部屋で接待していた客に、酷い暴力を受けたのだという。
「お願い...私をどこか連れて行って...もうこんなの耐えられない...。」青年の腕にしがみつき、声を詰まらせて泣きながら彼女はそう訴える。
夕陽が沈みかけ、もうすぐ夜の帳が降りてしまう...少女は空を見上げ、はっと我に帰った顔をすると「もう小部屋に帰らなきゃ。」と青年の腕を離した。
駆け出そうとした少女の手を、青年はそっと掴む。「僕はあなたといっしょに逃げる。もう誰にも、あなたを傷つけられたくない...。」
青年は、少女が被っていたベールを外し、その小さな身体を包み込み抱え上げた。少女は歩くこともままなりないほど弱っている。「店番が探しにくる前に逃げよう。遠くへ、遠くへ...夜の帳が降りる前に。」少女を抱き抱えた青年は、夕日の中を駆け抜ける。
遠くへ、遠くへ...遠くへ。
次章【第8章・数千の時を越えて(後偏)】更新を楽しみにお待ちください🌙
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これは、数千年前に激動の歴史と、戦場の中を一国の姫として生きた、ある少女の物語。
【第7章・数千の時を越えて(前編)】
夕方の光の中で、少女は川辺の水に花を浮かべていた。夕陽が、水面(みなも)をきらきらと照らし、薄桃色の睡蓮をゆらゆらと揺らした。少女は、白い肌に、青い瞳という出で立ちをしていた。絹の白いワンピースのみを見に纏い、ウェーブのかかった黒髪には銀の髪飾りが付いていた。銀の腕輪や、首飾り...少女は高価な品ばかりを見に纏っていたが、決して高貴な身分ではない。少女の足元をみれば、彼女が被差別階級であることがすぐに分かった。少女は靴を履いていないのだ。裸足だった。被差別階級の者は、靴を与えてもらえない。奴隷として、遠くに逃げられないようにするためだ。夕陽が沈む前に、帰らなければならない...今日も"ご奉仕"に勤めなければならないのだから。
夜の帳が降りてくる。長い長い夜が始まる。薄灯の灯った部屋の中、今日も少女はご奉仕に勤める。少女は高級娼婦なのだ。もうこれまでに、何人の客を相手にしてきたのだろう。数えきれない。この場所に来てから、ひたすらに死だけを希望に生きてきた。唯一の安らぎは、小部屋(娼婦や遊女が客をとる部屋のこと)から出て、外出することを許された時間に川辺で水に花を浮かべら遊びをすること、空を見上げることだった。空を仰ぐと、少し死に近づく気がして、身体を弄ばれる苦しみから、解放される気がした。
しかし、小部屋の中で過ごす長い長い痛みと屈辱にみちた夜は、空すら仰ぐことができない。空さえ仰げないこの苦界で、心の中でひたすらに天国のかけらを探すのだった。
少女の生まれ故郷は、隣国にある小さな村だった。その国の地中には"数千年前に、砂嵐と洪水によって滅びた巨大帝国"が埋もれているという伝説があった。かつてはいくつもの属国を持つ巨大帝国だったと言い伝えられており、地中を掘れば莫大な資源や富が採掘できるはずであったが、地中を掘ろうとした者はみな不治の病にかかったり、突然死したりした。これは、かつて無実の罪を着せられ、戦場で亡くなった帝国の姫の呪いであると言い伝えられてきた。そして、数千年の時がたった今、かつての巨大帝国は周囲の帝国の属国になるどころか、どの国にも見捨てられた貧国のひとつに成り下がってしまった。
また、その国では人々が"突然に悪霊に取り憑かれ気がふれてしまう"という恐ろしい病が古くから流行していた。これにかかった者は、元の自分を忘れ、獣のように恐ろしい目つきになり、暴力的になってしまう。また幻覚や妄想が見える様になり、呪いの言葉を吐き続ける様になる。どんな凄腕の祈祷師でも、この病を治すことはできなかった。
少女の両親も、この病にかかってしまったのだ。愛情に溢れ、優しかった両親は、別人のようになり、獣の様な形相で夜な夜な暴力を振るうようになった。それに耐えかねて、ある日突然に家を逃げ、故郷を捨て、国境を越えて隣国まで逃げてきたのだ。日頃の暴力と、十分な食事も取れないままの長距離移動は過酷だった。この国についた時には、身も心もぼろぼろだった。
しかし、着の身着のままに国境を越えた逃げてきた少女には、どこにも行くアテがなく、自分の身を売る他に生きる術がなかったのだ。
「私は幸せにはなれない。この小部屋の中で、搾取されながら残りの生涯を終えるのだわ。」それが少女の口癖だった。しかし、少女の運命は突如変わることとなる...。
少女と、その青年の出会いは突然のことだった。
ある日のこと、いつもの様に水に花を浮かべて歌っていたら、青年は少女の目の前に突然に現れた。「美しい歌声に惹かれて、ここまでやってきた。」のだと青年は言った。「駒鳥の様に高音で美しい声。」だと、青年は少女の歌声を褒め讃えた。
「私に無償で話しかけるなんて、なんて図々しいの。私の足元を見てごらんなさい...私が娼婦だということがお分かりでしょう?私を口説くなら、小屋に来てお金を払ってからにしておくんなし。でもあなたは...見る限り一生をかけてお金を貯めても、私を抱けるだけのお金は貯まらないでしょうね。」いつも、少女が川辺で遊んでいると声をかけてくる道ゆく行商人や、旅人、釣り人に声をかけられては、少女は嫌味ったらしく憎まれ口を叩き、彼らを突っぱねるのだった。
けれども...青年はそんは男達と何かが違った。色情的な欲を全く感じなかった。これまで数えきれない数の人数に"ご奉仕"してきた彼女の目は、それを簡単に見抜いた。
その日から毎日のこと、青年は、少女が水に花を浮かべて歌っていると、やってきた。娼婦である少女が外に出ることを許されているのは、夕暮れ時から、夜の帳が降りてくるまでのわずかな時間だ。その僅かな時間、ただただ水に花を浮かべて時間を過ごした。
寝て起きて、小部屋の中で身体を弄ばれて、毎日がその繰り返し。死ぬよりも痛く苦しい日々の中で、少女は感情を殺し、記憶に蓋をし、ただ何も感じずに生きる様になっていた。
しかし、青年と少しずつたわいもない会話(それは、好きな花の名を言い合ったり、そばに寄ってくる小鳥を愛でることだった。)を交わす様になり、喜びやささやかな幸せを思い出しては、感情や記憶を少しずつ取り戻す様になっていった。と同時に、日々自分が受けている扱いに対して、大きな悲しみと怒りを覚える様になる。虐待から逃げて、命懸けで国境を越え、ぼろぼろになった心身も癒えぬまま、こうして身体を買われているのだ。まだ10代の少女の悲しみは計り知れない。
「この人が、私を水揚げ(娼婦や遊女の身を金で買い取り、愛人や妻にすること。)してくれたらいいのに...。けれども私は、高級娼婦であるとはいえ、身体を売っている以上はこの国では被差別階級。この人は私のことを好きになってくれるのかしら。」少女はそんな思いを心に秘めていた。
青年も同じことを思っていた。けれども彼は、若くして国の中でも一目置かれる優秀な人材でありながら、学者仲間の嫉妬によって学者の身分と財産を奪われ、小さな寺子屋で子供達に学問を教えながら、日銭暮らしをしていた。
「どうしたの?恥ずかしいの?もっとこっちを見てくださいな。」川辺でふたりで過ごす時間、少女は度々、青年にそう微笑みかける。
「そばにいながら、あなたを自由にしてあげられないのが悲しくて、悔しくて、あなたを真っ直ぐに見ることができないんだ...学者の身分や財産を奪われていなければ、すぐにでもあなたを水揚げしたのに...。」そんな思いを青年はぐっと飲み込んだ。
ある日、川辺で青年が少女を探していると、後ろから自分の名を弱々しく呼ぶ少女の声が聞こえた。振り返ると、そこはアザキズだらけの、ボロボロの姿の少女がいた。ドレスと髪を覆うベールには血が滲んでいて、息が乱れ、立っているのもやったという状態で震えていた。小部屋で接待していた客に、酷い暴力を受けたのだという。
「お願い...私をどこか連れて行って...もうこんなの耐えられない...。」青年の腕にしがみつき、声を詰まらせて泣きながら彼女はそう訴える。
夕陽が沈みかけ、もうすぐ夜の帳が降りてしまう...少女は空を見上げ、はっと我に帰った顔をすると「もう小部屋に帰らなきゃ。」と青年の腕を離した。
駆け出そうとした少女の手を、青年はそっと掴む。「僕はあなたといっしょに逃げる。もう誰にも、あなたを傷つけられたくない...。」
青年は、少女が被っていたベールを外し、その小さな身体を包み込み抱え上げた。少女は歩くこともままなりないほど弱っている。「店番が探しにくる前に逃げよう。遠くへ、遠くへ...夜の帳が降りる前に。」少女を抱き抱えた青年は、夕日の中を駆け抜ける。
遠くへ、遠くへ...遠くへ。
次章【第8章・数千の時を越えて(後偏)】更新を楽しみにお待ちください🌙
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